「分析点は合っているし、ある程度理解はできている。でも、これは説明しているだけで分析になっていない」
IB日本語A 言語と文学(Language and Literature)Paper 1のフィードバックで、このコメントをもらった経験はありませんか。
先生の言う「分析になっていない」の正体がわからず、何をどう直せばいいのか悩んでいる生徒はとても多いです。この記事では、IB公式の評価基準(Assessment Criteria)に立ち戻って「説明」と「分析」の違いを整理し、テクストをなぞるだけの答案から抜け出すための具体的な書き方を解説します。
目次
- Paper 1の基本構造(SL/HLの違い)
- IB公式評価基準が示す「説明」と「分析」の境界線
- 「テクストをなぞる」答案の3つの典型パターン
- 「抽象しすぎで具体性がない」の正体
- 広告分析:説明止まりの答案 vs 分析に踏み込んだ答案
- 「So What?/だからどうした」の3層構造
- 分析を言語化する型(作者の選択→技法→効果→読者の反応)
- Paper 1で分析力を鍛える日常トレーニング
- IBの勉強でお悩みですか?
Paper 1の基本構造(SL/HLの違い)
まず前提として、日本語A 言語と文学 Paper 1の試験形式を整理します。
SL(Standard Level)
- 初見の非文学テクスト 1つ を分析
- 試験時間:1時間15分
- ガイディングクエスチョン(誘導問い)付き
- 最終評価全体に占める割合:35%
HL(Higher Level)
- 初見の非文学テクスト 2つ を分析(それぞれ別エッセイ)
- 試験時間:2時間15分
- それぞれにガイディングクエスチョン付き
- 最終評価全体に占める割合:35%
テクストの種類は、広告、新聞記事、コラム、パンフレット、インタビュー、スピーチ、ブログ、漫画など多岐にわたります。小説や詩などの文学テクストはPaper 2で扱うため、Paper 1では出題されません(2021年カリキュラム改訂以降、初回評価2021年・First assessment 2026年版シラバスでも継続)。
IB公式評価基準が示す「説明」と「分析」の境界線
Paper 1は4つの評価基準(Criterion A〜D)で採点されます。各基準は最大5点、合計20点(HLは2テクストなので合計40点)。
Criterion A:理解と解釈(Understanding and interpretation)
- テクストの内容を正確に理解しているか
- 自分の解釈を、テクストからの引用で裏付けているか
- 平たく言えば「何が書かれているかを読み取る力」
Criterion B:分析と評価(Analysis and evaluation)
- 作者がどのような言語・技法・スタイルを用いて意味を作り出しているか
- それらの選択がどのような効果を生んでいるか
- 平たく言えば「どうやって意味が作られているかを解きほぐす力」
Criterion C:焦点・構成・展開(Focus, organization and development)
- 論点が一貫しているか、論の展開が論理的か
Criterion D:言語(Language)
- 文法、語彙、レジスター、文体の正確さと適切さ
ここで重要なのは、「説明」はCriterion Aの領域、「分析」はCriterion Bの領域ということです。
「説明しているだけで分析になっていない」というフィードバックは、言い換えると「Criterion Aは取れているが、Criterion Bが取れていない」状態を指します。
Criterion Aの最高点descriptorでは「convincing / perceptive(説得力のある/洞察に富む)解釈」が求められ、Criterion Bの最高点descriptorでは「insightful analysis of how language, technique and style shape meaning(言語・技法・スタイルがどのように意味を形成するかについての洞察に富む分析)」が求められます。
キーワードは “shape meaning”(意味を形成する)。この「どのように意味を作り出しているか」に踏み込めているかどうかが、説明と分析の境界線です。
「テクストをなぞる」答案の3つの典型パターン
先生から「テクストをなぞっているだけ」と言われる答案には、だいたい次のどれかのパターンが見られます。
パターン1:引用した内容を言い換えただけ
例:「『疲れ果てた顔』という表現から、主人公が疲れ果てた様子が読み取れる」
引用した言葉を別の言い方に置き換えただけで、作者がなぜその表現を選んだのか、どんな効果を生んでいるかには触れていません。
パターン2:技法の名前を挙げただけ
例:「この広告では比喩が使われている。また、反復も使われている」
技法の識別はできていますが、その技法が「何を」「どのように」伝える効果を生んでいるかまで踏み込んでいません。
パターン3:作者の意図を決めつけて終わる
例:「作者は商品を買わせたいと思っている」
結論を言い切っていますが、その結論にどう到達したか(テクストのどの要素がその解釈を支えているか)の往復運動がありません。
「抽象しすぎで具体性がない」の正体
もう一つのよくあるフィードバックが「抽象しすぎで具体性がない」です。これはパターン3と表裏の関係にあります。
分析は「抽象⇄具体」を何度も往復することで成り立ちます。
- 具体:テクストの特定の語句、行、画像、レイアウト
- 抽象:その具体が生み出す効果、作者の選択、読者の反応、より大きなテーマ
「抽象しすぎ」と言われる答案は、抽象の側だけで話が完結していて、その抽象を具体の言葉で裏付けていない状態です。
逆に「なぞっているだけ」と言われる答案は、具体の側だけに留まっていて、抽象の意味づけに上がれていない状態。
分析とは、抽象と具体を小刻みに往復させながら、作者の選択とその効果を解き明かすことです。
広告分析:説明止まりの答案 vs 分析に踏み込んだ答案
具体例で見てみましょう。ある化粧品広告で「キャッチコピー:今日の私を、もっと好きになる」「画像:朝日を浴びる女性のアップ」「ボディコピー:肌は、気持ちを映す鏡」というテクストがあったとします。
説明止まりの答案(Criterion A寄り)
「この広告のキャッチコピー『今日の私を、もっと好きになる』は、この商品を使うと自分のことが好きになれるというメッセージを伝えている。画像は朝日を浴びる女性で、爽やかな朝の印象を与える」
内容は読み取れていますが、なぜその表現・なぜその画像が選ばれたかという「作者の選択」に踏み込んでいません。
分析に踏み込んだ答案(Criterion B到達)
「キャッチコピー『今日の私を、もっと好きになる』は、二人称ではなく一人称の『私』を採用することで、広告のメッセージを『売る側から買う側への呼びかけ』ではなく『買う手の内側の独白』として提示している。『好きになる』の主語が自分自身であることで、購入行為が外発的な消費ではなく、自己肯定のための選択だという構図にすり替えられている。この自己目的化の構図は、朝日を浴びる女性の画像によって視覚的にも補強される。朝日は一日の始まりと希望の常套的象徴だが、ここではその光を受ける女性の表情が商品使用後の理想状態として提示されることで、購入→使用→自己受容という時間軸を読者の無意識に刷り込む。読者は広告を『見て判断する』のではなく、『自己変容の物語の中に自分を投影する』立場に誘導される」
具体(語句・画像)と抽象(効果・読者の位置)を往復しながら、作者の選択がどう意味を形成しているかを言語化しています。これがCriterion Bで評価される「shape meaning」の分析です。
「So What?/だからどうした」の3層構造
分析の深さを自分でチェックする最も単純な方法は、自分の書いた一文一文に「So What?(だから何?)」を3回問いかけることです。
第1層:何が書かれているか(What) 「『私』という一人称が使われている」
第2層:なぜそれが選ばれているか(So What? 1回目) 「買う側の内面として読者に近づける効果がある」
第3層:それが読者/テクスト全体の意味にどう作用するか(So What? 2回目) 「購入行為が消費ではなく自己肯定の選択として再定義される」
第4層:そのことが作者/テクストのより大きな目的・主題とどう結びつくか(So What? 3回目) 「自己啓発的な消費文化と連動し、商品を買わない選択を『自分を肯定しないこと』と同義にすり替える構造を持つ」
3回のSo Whatを往復できれば、自動的に「分析」のレベルに到達します。
分析を言語化する型(作者の選択→技法→効果→読者の反応)
慣れないうちは、以下の4ステップ型に一文一文を当てはめて書くと、分析の型が染みつきます。
ステップ1:作者の選択 「作者は〜という表現/構成/視点を選んでいる」
ステップ2:技法の命名 「これは〜(比喩/反復/一人称/対比など)の技法である」
ステップ3:効果の言語化 「この選択によって、〜という意味/印象が生み出されている」
ステップ4:読者の反応・テクスト全体との接続 「読者は〜の立場に置かれ、結果としてテクスト全体の〜というメッセージが強化される」
この4ステップは、Criterion B(分析と評価)のdescriptorが求める「how language, technique and style shape meaning」に直接対応しています。
Paper 1で分析力を鍛える日常トレーニング
分析力は試験直前の詰め込みでは身につきません。日常的に非文学テクストと向き合う習慣が必要です。
- 駅のポスター・電車広告・新聞広告を毎日1つ選んで3分で分析する:キャッチコピー・画像・レイアウト・ターゲット読者を4ステップ型に当てはめる
- スポーツ紙・情報誌のコラムを1本精読する:論説の構成、語彙の選択、書き手の立場表明を観察する
- SNSの投稿や企業の公式アカウントの発信を「なぜこの書き方か」で読み返す:対象読者、発信者の立場、使われている語彙の方向性を言語化する
- 過去問のガイディングクエスチョンに沿ってアウトラインを1日1本書く:本文を全部書かなくても、各段落の核となる主張と引用候補を書き出すだけでも効果的
特にPaper 1は「テクストに初めて出会う瞬間の読み方」を鍛える試験です。知らないテクストに出会ったときに、4ステップ型とSo Whatの3層構造を反射的に回せるようになることがゴールです。
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出典
- International Baccalaureate Organization (IBO)「Language A: Language and Literature course」公式サイト:https://ibo.org/programmes/diploma-programme/curriculum/language-and-literature/language-a-language-and-literature/
- IB Language A: Language and Literature Subject Brief(First assessment 2021、継続適用)
- West Sound Academy LibGuides「IB Language and Literature HL (First Assessment 2026)」(IBワールドスクールによる公式シラバス整理)
- Philpot Education「English A: Lang Lit P1 SL/HL assessment criteria」