結論:純粋に文学を深く読み込みたいなら Literature、メディア・広告・スピーチなど現代的な「ことば」にも触れたいなら Language and Literature を選びましょう。 どちらも日本の大学・海外大学ともに「Group 1(母語)」として同等に扱われますが、学ぶ内容と評価スタイルが大きく異なります。

この記事では、IB Diploma Programme の Japanese A で履修できる2コースの違いを、IBO公式ガイド(first assessment 2021)に基づいて徹底的に整理します。高1・高2で科目選択に悩んでいる生徒、そして「どちらがうちの子に合うの?」と迷っている保護者の方に向けた完全ガイドです。


目次


そもそもGroup 1とは? Japanese Aの位置づけ

IB Diploma Programme(DP)では、6つの教科グループから1科目ずつ履修するのがルールです。Group 1「Studies in Language and Literature(言語と文学)」 は、学習者の母語(または最も得意な言語)で履修する科目グループで、日本人バイリンガル生徒の多くは Japanese A を選びます。

Group 1には公式に3つのコースが用意されています。

  1. Language A: Literature(文学)
  2. Language A: Language and Literature(言語と文学)
  3. Language A: Literature and Performance(文学とパフォーマンス) ※SLのみ、英語・スペイン語でのみ提供

このうち Japanese A として日本語で履修できるのは LiteratureLanguage and Literature の2コースです。Literature and Performance は日本語では提供されていないため、日本人バイリンガル生徒の実質的な選択肢はこの2つに絞られます。

どちらを選んでも「母語で高度な言語スキルを育てる」という目的は共通ですが、学ぶ素材と評価の重点が違います。ここからは、それぞれの中身を順番に見ていきましょう。


Japanese A Literature コースの全貌

コースの目的

Literature コースは、文学作品(literary works)のみを対象に、テキストの精読・解釈・批評を深める科目です。小説・詩・戯曲・随筆といった伝統的な文学ジャンルに加え、翻訳文学(世界文学)も扱います。純文学・古典に触れる時間が長く、「文字で書かれた芸術」としてのことばに向き合う2年間になります。

学習の3本柱(Areas of Exploration)

IB 公式ガイド(first assessment 2021)では、Literature の学習は次の3つの探究領域に沿って進みます。

  • Readers, writers and texts(読み手・書き手・テクスト) ― 文学作品を個別に精読し、作者の技巧と読者の解釈を掘り下げる
  • Time and space(時間と空間) ― 作品が書かれた歴史的・文化的コンテクストと現代の読者との関係を考える
  • Intertextuality: connecting texts(相互テクスト性) ― 複数の作品を結びつけ、ジャンル・テーマ・手法の共通点や差異を分析する

扱う作品数

  • SL:9作品
  • HL:13作品

どちらも「日本語で書かれた作品」「翻訳された世界文学」「自由選択」の3カテゴリーからバランスよく選ぶ必要があります。HLはSLより4作品多く、より幅広い時代・文化圏の文学に触れることが求められます。

こんな生徒に向いている

  • 小説や詩を読むのが純粋に好き
  • 古典や近代文学の世界観に興味がある
  • 大学で文学・言語学・哲学・歴史を学びたい
  • 「ことば」の美しさや構造を味わいたい

Japanese A Language and Literature コースの全貌

コースの目的

Language and Literature コースは、文学作品 + 非文学テクスト(non-literary body of work) の両方を扱う、より現代的でメディアリテラシー寄りのコースです。文学だけでなく、広告・新聞記事・政治スピーチ・ブログ・映像・SNS投稿といった日常のコミュニケーション素材を批判的に読み解きます。

「ことばが社会や個人にどう影響するか」を探究するのが特徴で、「言語=社会の道具」という視点を強く持っています。

学習の3本柱(Areas of Exploration)

Language and Literature も Literature と同じ3つの探究領域を使いますが、扱う素材が広がります。

  • Readers, writers and texts ― 文学作品と非文学テクストの両方を精読
  • Time and space ― メディア・文化的文脈の中でテキストを位置づける
  • Intertextuality ― 広告と小説、スピーチと詩のように、異なるテクスト同士を比較

扱う作品数

  • SL:文学作品4作品 + 非文学テクスト群
  • HL:文学作品6作品 + 非文学テクスト群

「非文学テクスト群(non-literary body of work)」は個別のカウントではなく、ひとつの作家・メディア・ジャンルをまとまりとして扱う形式です。広告シリーズ、ある政治家のスピーチ集、特定メディアの報道スタイルなどが対象になります。

こんな生徒に向いている

  • ニュース・SNS・広告が社会に与える影響に関心がある
  • メディアリテラシーや批判的思考を伸ばしたい
  • 将来はビジネス・経済・政治・ジャーナリズム・マーケティングに進みたい
  • 「文学だけ」より「現代のことば全般」を扱いたい

【比較表】Literature vs Language and Literature 一目でわかる違い

項目Japanese A LiteratureJapanese A Language and Literature
扱う素材文学作品のみ(小説・詩・戯曲・随筆・翻訳文学)文学作品 + 非文学テクスト(広告・新聞・スピーチ・メディア等)
SL作品数9作品文学4作品 + 非文学テクスト群
HL作品数13作品文学6作品 + 非文学テクスト群
Paper 1文学テクストの精読分析(unseen literary text)非文学テクストの精読分析(unseen non-literary text)
Paper 2学習した2作品の比較エッセイ学習した2作品の比較エッセイ(内容は同じ)
Individual Oral (IO)学習作品2つをテーマで結ぶ口頭分析(全て文学)文学作品と非文学テクストをテーマで結ぶ口頭分析
HL Essay(HLのみ)文学作品1点についての1200-1500語エッセイ文学または非文学テクスト1点についての1200-1500語エッセイ
向いているタイプ文学・古典・人文系に進みたい生徒メディア・社会・ビジネス系に進みたい生徒
授業の主な作業テクストの精読・象徴解釈・文学理論精読 + メディア分析・言語の社会的機能の探究
first assessment2021年〜2021年〜

どちらのコースも、日本のインター校・IB校では広く提供されています。各学校で履修できるコースは限られる場合があるので、学校のIBコーディネーターに必ず確認してください。


アセスメント構成の違い(Paper 1 / Paper 2 / IO / HL Essay)

ここが「選び方」で一番の分かれ目になります。同じ「Paper 1」と呼ばれる試験でも、Literatureでは文学テクスト、Language and Literatureでは非文学テクストが出題されます。

Paper 1(guided textual analysis)

  • Literature:見たことのない文学作品の一節(詩・小説・戯曲の抜粋など)が出題され、「ガイディング・クエスチョン(導きの問い)」に沿って分析を書きます
  • Language and Literature:見たことのない非文学テクスト(広告・新聞コラム・演説の一節など)が出題されます。視覚素材(画像・グラフィック)が含まれることも多いのが特徴

Paper 2(comparative essay)

どちらのコースも同じ形式で、学習した2作品を比較する比較エッセイです。試験場で与えられたプロンプトに対して、授業で読んだ作品を使って論を組み立てます。Paper 2攻略については IB Japanese A Paper 2 完全攻略テンプレ もあわせて参考にしてください。

Individual Oral(IO・内部評価)

15分間(準備10分 + 発表10分 + 質疑5分)の口頭試験で、事前に選んだ引用を起点にテーマを論じます。

  • Literature:「学習した文学作品2点」を1つのグローバル・イシュー(例:権力・アイデンティティ・文化の衝突)でつなげる
  • Language and Literature:「学習した文学作品1点 + 非文学テクスト1点」をグローバル・イシューでつなげる

Paper 1と並ぶ重要分析スキルについては IB日本語A Paper 1「分析」と「描写」の違い で詳しく扱っています。

HL Essay(HLのみの外部評価)

HLを履修する場合のみ、1200〜1500語の学術エッセイを課題として提出します。Literature では文学作品、Language and Literature では文学作品または非文学テクストから1点選びます。全評価の20%を占めるため、HL履修者にとっては落とせない要素です。

配点(外部評価+内部評価)

IB Language A の公式配点は次のとおりです(Literature と Language and Literatureで配点構造は同じ)。

  • SL:Paper 1 35% / Paper 2 35% / IO 30%
  • HL:Paper 1 20% / Paper 2 25% / IO 40% / HL Essay 20%

Paperの配点は学校や年度によって細かく調整されることがあるため、最新の Subject Guide と Subject Brief をIB公式サイトで必ず確認してください。


SLとHLの違い ― 作品数・負担・戦略

同じコース内でSLとHLを選ぶ場合、違いは大きく3つです。

1. 授業時間

  • SL:150時間
  • HL:240時間

HLはSLの1.6倍の授業時間で、読む作品数も増え、より深い分析が求められます。

2. 作品数

  • Literature:SL 9作品 / HL 13作品(+4作品)
  • Language and Literature:SL 文学4作品 / HL 文学6作品(+2作品)+ 非文学テクスト群の深掘り

3. HL Essay の有無

HLのみ 1200〜1500語のHL Essay を提出する必要があります。これは2年間かけてじっくり書き上げる学術エッセイで、書く力を強く鍛えてくれる反面、他科目の負担とのバランスを考える必要があります。

HL/SLの選び方

  • 母語として日本語に自信がある × 人文系・社会科学系進学:HL推奨
  • 理系・数学系が本命で、日本語は標準レベルを確実に取りたい:SL選択で他HLにリソースを集中
  • 帰国子女で日本語の読み書きがやや不安:SLで土台固め

科目全体のHL/SL配分については、IB科目選択ガイド2026 も参考にしてください。


「あなたはどちら向き?」タイプ別診断

以下のチェックリストで、自分がどちら寄りか確認してみましょう。

Literature 向きのサイン

  • 小説や詩を読むのが好き、読書時間が長い
  • 象徴・比喩・文体の違いを発見するのが楽しい
  • 大学で文学部・人文学部・哲学・歴史を視野に入れている
  • 古典や近代文学の「独特の言い回し」に抵抗がない
  • 一つのテクストをじっくり精読する集中力がある

Language and Literature 向きのサイン

  • ニュース、SNS、広告、CMに普段から関心がある
  • 「このCMなんでこんな言葉を使ってるんだろう」と考えるタイプ
  • 大学で経済・経営・政治・国際関係・メディア系を目指したい
  • 批判的思考(critical thinking)を伸ばしたい
  • 文学だけでは少し退屈、現代社会との接点がほしい

両方に向いているなら

迷ったら、学校が提供しているコース先生との相性 で決めるのも十分アリです。IB日本語Aの評価は担当教員の指導スタイルに大きく左右されるため、体験授業を受けてから決めると失敗が減ります。


大学出願での扱い ― 日本大学・海外大学での評価

日本の大学(IB入試)

東京大学、京都大学、早稲田、慶應、上智、国際基督教大学(ICU)などの IB入試枠 では、Literatureも Language and Literatureも 同等に「Group 1(母語)」として評価されます。どちらも日本の大学が国語相当として認めているため、「Literatureの方が有利」「Language and Literatureは不利」ということはありません。

ただし以下の点に注意してください。

  • 医学部など一部学部では、Japanese AのHL履修 を出願要件とする場合があります
  • 日本語での小論文試験が課される場合、Literatureで鍛えた精読力 が有利に働くこともあります
  • 出願先の最新要件は各大学のIB入試ページで必ず確認してください

海外大学(米国・英国・オーストラリア等)

海外大学では、IB Japanese A はどちらのコースでも Group 1 の要件を満たす「母語としての日本語」 として認められます。米国アイビーリーグや英国ラッセル・グループの多くは、コースの種類よりも「IB Diploma全体のスコア」と「HL科目の総合点」を重視します。

大学側が特定のコース指定をすることはほぼありません。安心してどちらを選んでも大丈夫です。IB×海外大学進学の詳細は IB×海外大学進学の基本 も参考にしてください。

進学先別のおすすめ

  • 日本の文系学部(文・法・経済):どちらでもOK。文学部志望ならLiterature微有利
  • 日本の理系学部:SLで着実に高得点を目指す戦略が有効
  • 海外大学リベラルアーツ:どちらでも評価は変わらない
  • ジャーナリズム・国際関係・政治学志望:Language and Literature が親和性高い

よくある誤解と失敗パターン

誤解1:「Literatureの方が難しい」

実際には、どちらが難しいかは生徒のタイプによるのが正解です。Literatureは読む作品数が多く古典や翻訳文学も扱うので、読書量の少ない生徒には負担が大きい。一方 Language and Literature は非文学テクストの分析スキルが新しく求められるので、「広告や新聞を読み解く訓練」が未経験の生徒には戸惑いがあります。

誤解2:「Language and Literature は簡単」

「現代的で取っつきやすい」というイメージが先行しますが、Paper 1で非文学テクスト(広告・演説など)を限られた時間で分析するのは、文学精読とは違うタイプの難しさがあります。視覚素材が含まれることも多く、「画像が何を意図しているか」を言語化する訓練が必須です。

誤解3:「日本の大学はLiteratureを優先する」

これは事実ではありません。文部科学省とIBOの連携のもと、日本のIB入試では両コースとも Group 1 として同等に扱われます。迷ったら進路ではなく興味・授業の質・先生との相性で決めて問題ありません。

誤解4:「2年目に変えられる」

原則として、DP1の開始から半年以内であればコース変更が可能な学校が多いですが、DP2(高3相当)に入ってからの変更は極めて困難です。コース変更には学校の承認・教員のリソース・カリキュラムの進捗が絡むため、選択の時点で慎重に検討しましょう。


FAQ

Q1. Literature と Language and Literature、大学受験で有利なのはどっち?

A. 大学受験での優劣は基本的にありません。日本の大学のIB入試でも海外大学でも、どちらも Group 1(母語)として同等に扱われます。興味のあるコースを選ぶのが一番、結果として高得点を取りやすい戦略です。

Q2. 日本語が完璧でなくても Japanese A は履修できますか?

A. Japanese A は「母語としての日本語」を前提とした科目なので、日本語での読み書きに強みがある生徒向けです。日本語の読み書きがやや不安な帰国子女の場合は、Japanese B(第二言語としての日本語) を選ぶ選択肢もあります。最終判断は学校のIBコーディネーターに相談してください。

Q3. Paper 1 と Paper 2、どちらが難しいですか?

A. 一般的にPaper 1(unseen textの精読)が難しいと感じる生徒が多いです。その場で初見のテクストを分析するため、普段の精読訓練の質が問われます。Paper 2は事前に学習した作品を使うので準備が効きやすい一方、比較論の構築力が必要です。それぞれの攻略法は Paper 1分析 vs 描写Paper 2テンプレ戦略 を参照してください。

Q4. HL Essayはどのくらい早く準備すべきですか?

A. DP1(高2相当)の後半からテーマを固め始め、DP2(高3相当)の前半に初稿を書き上げるのが理想です。1200〜1500語と短めに見えますが、学術的な論証を詰め込むには十分な推敲時間が必要です。

Q5. インター校と日本のIB校で、履修できるコースは違いますか?

A. 学校によって提供コースが異なります。多くの日本のIB認定校では両コースを提供していますが、小規模校では一方のみの提供もあります。また Literature and Performance(Group 1の3つ目のコース)は日本語では提供されていないため、Japanese A の実質的な選択肢は Literature と Language and Literature の2つです。


出典

※本記事は first teaching 2019 / first assessment 2021 の Subject Guide に基づいています。IB はカリキュラムのマイナーアップデートを継続的に行うため、出願時点の最新 Subject Guide を公式サイトで必ず確認してください。


関連記事


IB日本語Aのコース選択は、2年間の学びの方向性と大学進学戦略を左右する大きな決断です。迷ったら、学校のIBコーディネーター・担当教員・IB経験者に相談するのが一番。IBトゥーターズ(IB-Tutors)ではIB卒業生チューターが、生徒一人ひとりの興味と進路に合わせて最適なコース選択をサポートしています。お気軽にご相談ください。