日本語と英語の両方が話せる。それは一見、IBにおいて有利に思えるかもしれません。でも実際は、バイリンガルだからこその悩みがたくさんありました。この記事では、日英バイリンガルとしてDP2年間を過ごした私の体験を、できるだけ具体的にお伝えします。
言語科目の選択で悩んだ
DPの科目選択で最初にぶつかった壁が、Group 1とGroup 2の言語選択でした。
私の場合、日本語も英語もネイティブレベルに近い。でも、どちらが「母語」かと聞かれると、微妙なところ。日常会話は英語の方が楽だけど、深い思考をするときは日本語で考えることもある。
4つの選択肢で迷った
バイリンガルの場合、言語科目の組み合わせは大きく分けて4パターンあります。
- Japanese A Literature (HL) + English B (HL)
- Japanese A Literature (HL) + English A Literature (SL)
- English A Literature (HL) + Japanese B (HL)
- English A Language and Literature (HL) + Japanese A Literature (SL)
私は最終的にパターン1のJapanese A Literature(HL)とEnglish B(HL)を選びました。でも、パターン2のBilingual Diplomaも真剣に検討しました。English A Literatureを取るか、Japanese Bにするか、3ヶ月近く悩み続けました。
決め手になったのは大学出願
最終的にEnglish Bを選んだ理由は、海外大学の出願を見据えたときに、English BでHL 7を取る方が、English A SLで中途半端な点数を取るより有利だと判断したからです。English Aは文学作品の深い分析が求められるので、ネイティブと同じ土俵で戦うことになる。それよりも、English B HLで確実に高得点を狙った方が戦略的でした。
ただ、この判断が正解だったかは今でもわかりません。English A Literatureを取ったバイリンガルの友達は、Bilingual Diplomaを取得して、それが大学出願でアピールポイントになっていました。
「どっちも中途半端」という不安
バイリンガルの悩みとして一番大きかったのは、「どちらの言語も完璧じゃない」という感覚です。
Japanese Aで感じた壁
Japanese AのLiteratureでは、古典的な日本文学を深く読み解く力が必要でした。普段のコミュニケーションは問題ないけど、文学的な表現や古語の理解で、日本語のみで育った生徒に差を感じることがありました。
具体的には、夏目漱石の「こころ」を分析するとき、他の生徒が明治時代の言い回しをすらすら理解しているのに、私は辞書を引きながら読んでいました。「先生」や「K」の心理描写を論じるペーパーでも、微妙なニュアンスを捉えきれず、もどかしい思いをしました。
谷崎潤一郎の「細雪」を読んだときも、関西弁の会話の機微が理解できずに苦労しました。日常会話レベルの日本語力と、文学を分析するレベルの日本語力は全く別物なのだと痛感しました。
English Bでも油断できなかった
逆に英語でも、ネイティブスピーカーのクラスメートが使う高度な語彙やイディオムに追いつけないことがありました。English Bだからといって簡単なわけではなく、HLでは相当なレベルが要求されます。
Written Assignmentで文学作品を分析するとき、英語での表現の幅が足りないと感じることがありました。「自分が言いたいことの80%しか英語で表現できない」というもどかしさ。日本語なら100%伝えられるのに、英語だと微妙なニュアンスが抜け落ちてしまう。
「どちらの言語でも一番にはなれない」。この気持ちは、結構しんどかったです。
IOで言語の切り替えに苦しんだ
Individual Oral(IO)は、Japanese Aで日本語のプレゼンをした後に、English Bで英語のプレゼンがありました。
問題は、頭の中で言語の切り替えがスムーズにいかないこと。日本語でプレゼンした直後に英語に切り替えると、最初の数分間は日本語の語順で英語を話してしまう。逆も同様です。
練習中に起きた「言語混乱」
IOの練習をしていたとき、日本語のプレゼンの途中で突然英語の単語が出てきてしまうことがありました。「この作品のtheme…じゃなくて、テーマは」と言い直す場面が何度も。逆に英語のプレゼンでは「This character’s 心情…I mean, feelings」と日本語が混じってしまう。
先生には「言語の切り替えに時間を取るように」とアドバイスされましたが、試験当日は緊張もあって、頭の中が2つの言語でぐちゃぐちゃになりました。
効果があった対策
対策として、IOの前日は「明日は日本語モード」「明日は英語モード」と決めて、その言語だけで生活する練習をしました。朝から晩まで、考え事も独り言もその言語で。かなり不自然でしたが、効果はありました。
他にも試した対策をまとめます。
- プレゼンの原稿を何度も音読して、言語ごとの「口の動き」を体に染み込ませる
- 日本語と英語のプレゼンの間に5分間の休憩を挟む(先生に相談して許可をもらった)
- 各言語の「スイッチワード」を決める(日本語に切り替えるときは「では」、英語に切り替えるときは「So」から始める)
- 練習は本番と同じ順番で通しでやる
結果的にIOの点数は悪くなかったのですが、もっと早くから対策を始めていれば、さらに自信を持って臨めたと思います。
EEの言語選択
EE(Extended Essay)を何語で書くかも大きな決断でした。
英語で書けば参考文献が豊富。日本語で書けば自分の表現力を活かせる。悩んだ末に英語で書くことにしました。理由は、海外大学への出願でEEの内容を話す際に、英語で書いた方が一貫性があると思ったからです。
英語EEで「5分が30分」になる苦労
ただ、英語のEEでは「日本語なら5分で書ける段落に30分かかる」ことが何度もありました。ニュアンスの微妙な違いを英語で表現するのが難しかった。
例えば、「日本の教育制度における集団主義の影響」について書いたとき、「集団主義」をcollectivismと訳すだけでは不十分で、日本語の「集団主義」が持つ微妙なニュアンス(ネガティブでもポジティブでもない、ただそこにある文化的特性としての意味合い)を英語で説明するのに、数時間かかりました。
4000語のEEを書き終えるのに、モノリンガルの友達の1.5倍くらいの時間がかかったと思います。でも、この経験は大学でのレポート執筆にも活きています。
EEのテーマ選びとバイリンガルの強み
一方で、バイリンガルだからこそ選べるテーマがあるのも事実です。私は日本語の一次資料と英語の学術論文の両方を使って、比較分析ができました。英語だけ、日本語だけでは手が届かない領域にアクセスできるのは、バイリンガルの大きなアドバンテージです。
EEのスーパーバイザーにも「日本語の文献を英語のEEに組み込めるのは強みだ」と言ってもらえました。
バイリンガルの強みを活かす
苦労ばかり書きましたが、バイリンガルだからこその強みもたくさんありました。
TOKで輝ける
TOK(Theory of Knowledge)では「言語が知識にどう影響するか」というテーマがよく出てきます。日本語と英語の両方で考えられる私は、「同じ概念でも言語によって捉え方が違う」という実体験を語れました。これはモノリンガルの生徒にはできないことです。
TOKプレゼンでは「言語は思考を制限するか」というテーマを選び、日本語の「もったいない」や「木漏れ日」など英語に直訳できない概念を例に挙げて議論しました。先生から「非常にoriginalな視点」と高評価をもらえました。
TOKエッセイでも、言語に関するPrescribed Titleを選ぶと、バイリンガルの経験を根拠として使えるので説得力が増します。
翻訳という武器
日本語の資料を英語のレポートに引用する際、自分で翻訳できるのは大きなアドバンテージでした。日本語でしか手に入らない一次資料をEEに使えたのは、バイリンガルならではです。
大学に入ってからも、日本語の文献を英語のレポートに引用する場面は多くあります。翻訳アプリでは伝わらない微妙なニュアンスを自分で訳せるのは、研究の質を大きく上げてくれます。
CASでの活動
2つの言語が使えることを活かして、日本語が苦手な留学生に日本語を教えるCAS活動を行いました。週に1回、学校の放課後に日本語教室を開いて、5人の留学生に基本的な日本語会話を教えました。
この活動は約8ヶ月間続けて、生徒たちが簡単な日常会話ができるようになったのは本当に嬉しかった。CASのReflectionでも「言語を教えることで、自分自身の言語に対する理解が深まった」と書けたし、Personal Statementのネタにもなりました。
大学出願での差別化
バイリンガルの経験は、大学の出願書類でも大きな強みになります。「2つの言語と文化の間で揺れた経験」は、多くの大学が求める「多様性」や「異文化理解」にぴったりのエピソードです。
私のPersonal Statementでは、IOの言語切り替えで苦労した経験を出発点に、「2つの言語を持つことの複雑さと豊かさ」について書きました。面接でもこの話題に触れてもらい、深い議論ができました。
バイリンガルIB生の保護者の方へ
お子さんがバイリンガルでIBに挑戦している場合、言語選択は非常に重要な決断です。以下のポイントを参考にしてください。
科目選択は早めに情報収集を
Group 1とGroup 2の言語選択は、IBのスコアだけでなく、大学出願にも大きく影響します。Bilingual Diplomaを目指すかどうかも含めて、DPが始まる前に情報を集めておくことをお勧めします。
学校のIBコーディネーターや、IBを経験した講師に相談するのが一番確実です。お子さんの言語レベル、大学の志望先、将来やりたいことを踏まえて、最適な組み合わせを選んでください。
「どっちも中途半端」と感じるお子さんを責めないで
バイリンガルの子どもは、「どちらの言語も完璧じゃない」というコンプレックスを抱えがちです。これは努力不足ではなく、2つの言語を同時に高いレベルで維持することの難しさからくるものです。
「もっと日本語を勉強しなさい」「英語が足りない」と言うよりも、「2つの言語ができること自体がすごいことだよ」と伝えてあげてください。
専門家のサポートを活用する
バイリンガルのIB生は、モノリンガルの生徒とは違う種類のサポートが必要です。言語選択の相談、IOの練習、EEの言語関連のアドバイスなど、IBとバイリンガルの両方を理解している講師のサポートがあると心強いです。
バイリンガルIB生へ
もし「どっちつかず」と感じているなら、それはあなたの弱さではなく、強さです。2つの世界を行き来できるということは、それだけ広い視野を持っているということ。
IBの2年間は大変ですが、バイリンガルとしての経験はその後の人生で何度も助けてくれます。大学で2つの言語の文献を読める。留学先で異文化に自然に溶け込める。就職活動で「グローバル人材」として評価される。全て、IBで苦しんだ経験が土台になっています。
まとめ
バイリンガルIB生の経験をまとめます。
大変だったこと:
- Group 1とGroup 2の言語科目選択で長期間悩んだ
- 「どちらの言語も完璧じゃない」というコンプレックス
- IOでの言語切り替えの困難さ
- EEを英語で書くときの表現の壁
強みとして活きたこと:
- TOKで言語と知識の関係を実体験から語れた
- 日本語の一次資料を英語のレポートに活用できた
- CASでバイリンガルを活かした活動ができた
- 大学出願で「多様性」をアピールできた
言語選択で悩んだら、IBの経験者に相談してみてください。特にバイリンガルの経験がある講師なら、あなたの気持ちをわかってくれるはずです。