この記事は2025年新シラバス(First Assessment 2025)に完全対応しています。 2025年からIB Chemistryのシラバスは大きく変わりました。トピック構成がStructureとReactivityの2大テーマに再編され、Paper 3とオプションが廃止、IAの評価基準も5基準から4基準に変更されています。旧シラバスの情報で勉強している人は要注意です。
この記事では、新シラバスに基づいたIB Chemistryの全体像からトピック別の攻略法、IA(Scientific Investigation)の進め方、Paper対策、Data Bookletの使い方まで、IB卒業生の視点で徹底解説します。
IB Chemistry SLとHLの違い(2025年新シラバス)
まず、SLとHLで何が違うのかを整理しておきましょう。
SL(Standard Level)の概要
SLは理科の必修として選ぶ生徒が多いコースです。授業時間は150時間(うち実験プログラム40時間)で、基礎的な化学概念をしっかり学びます。
評価の内訳(2025年新シラバス)
- Paper 1(1A: MCQ 30問 + 1B: データ分析): 36% / 1時間30分
- Paper 2(記述・計算): 44% / 1時間30分
- IA(Scientific Investigation): 20%
HL(Higher Level)の概要
HLはSLの全内容に加えて、各トピックの発展的な内容を深く学びます。授業時間は240時間(うち実験プログラム60時間)です。
評価の内訳(2025年新シラバス)
- Paper 1(1A: MCQ 40問 + 1B: データ分析): 36% / 2時間
- Paper 2(記述・計算): 44% / 2時間30分
- IA(Scientific Investigation): 20%
旧シラバスとの大きな違い
- Paper 3は廃止。 試験はPaper 1とPaper 2の2本のみ
- オプション(Biochemistry、Materials、Energy、Medicinal Chemistry)も廃止。 一部の内容はコアシラバスに統合
- Paper 1にSection 1B(データ分析)が新設。 旧Paper 3のSection Aに相当する内容がここに移動
- Paper 1でも電卓とData Bookletが使用可能に
SLとHLの選び方
医学部、薬学部、化学系の学部を志望するなら、Chemistry HLが求められることが多いです。志望大学の出願要件を必ず事前に確認してください。
「理科は好きだけどメインの得点源にしたくない」という場合はSLで十分です。ただし、SLでも内容は軽くないので、計画的な学習は必要です。
新シラバスのトピック構成: StructureとReactivity
2025年新シラバスでは、旧Topic 1~11の構成が廃止され、「Structure(構造)」と「Reactivity(反応性)」という2つの大テーマに再編されました。「構造が反応性を決定し、反応性が構造を変える」という考え方がシラバス全体を貫いています。
Structure(構造): 物質の成り立ちを理解する
| トピック | テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| Structure 1 | 粒子の性質のモデル | 原子構造、電子配置、同位体、質量分析、モル計算 |
| Structure 2 | 結合と構造のモデル | 共有結合、イオン結合、金属結合、分子間力、VSEPR理論、混成(HL) |
| Structure 3 | 物質の分類 | 周期表のトレンド、遷移金属(HL)、有機化学の基礎、官能基 |
Reactivity(反応性): 化学変化の原理を理解する
| トピック | テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| Reactivity 1 | 化学反応を駆動するもの | エンタルピー変化、Hessの法則、Born-Haberサイクル(HL)、エントロピー、ギブズエネルギー(HL) |
| Reactivity 2 | どれだけ、どの速さで、どこまで | 量的関係(モル計算)、反応速度論、化学平衡、ルシャトリエの原理 |
| Reactivity 3 | 化学変化のメカニズム | 酸と塩基、酸化還元、有機反応メカニズム(HL)、電気化学 |
この構成の良いところは、「まず構造を理解し、それが反応にどう関わるか」という流れで学べること。旧シラバスではバラバラだったトピックが、論理的につながるようになっています。
トピック別攻略法
Structure 1: 粒子の性質のモデル - 全ての基礎
原子構造とモル計算は化学の土台です。ここが曖昧だと、後のすべてのトピックに影響します。
攻略ポイント
- モル計算は「単位変換」として捉える。g から mol、mol から g の流れを体に染み込ませる
- 限定試薬(limiting reagent)の考え方を完璧にする
- 溶液の濃度計算(mol/dm3)は毎回単位を書いて確認する
- 質量分析(mass spectrometry)のスペクトル解釈は新シラバスで重要度が上がっている
- HLでは電子配置の副殻・軌道(s, p, d, f)の詳細と、d-block元素の例外(Cr, Cu)が頻出
IB経験者からのアドバイス: Stoichiometryで一番多いミスは「単位の変換忘れ」です。cm3をdm3に変換し忘れる、kPaとPaを混同するなど、計算自体は簡単でも単位で点を落とす生徒が本当に多い。問題を解くときは必ず単位を書く癖をつけてください。
Structure 2: 結合と構造のモデル - 「描ける」ことが得点に直結
攻略ポイント
- Lewis構造式は正確に描けるまで繰り返し練習する。孤立電子対(lone pair)の位置が重要
- VSEPR理論で分子の形を予測する問題は、電子対の数から形状を即座に答えられるようにする
- 結合の種類(共有結合、イオン結合、金属結合、分子間力)と物質の性質(融点、導電性、溶解性)の関係を表にまとめておく
- HLではsigma結合とpi結合の違い、混成軌道(sp, sp2, sp3)の理解が必須
- 分子間力(ロンドン分散力、双極子-双極子力、水素結合)の強さの違いを説明できるようにする
Structure 3: 物質の分類 - 周期表と有機化学の基礎
攻略ポイント
- 周期表のトレンド(原子半径、イオン化エネルギー、電子親和力、電気陰性度)は横と縦の両方向で理解する
- 有機化学の官能基(functional group)を完璧に覚える。名前、構造、基本的な反応をセットで
- HLでは遷移金属の性質(可変酸化数、触媒作用、錯体形成、色)が頻出
- 異性体(structural isomers, stereoisomers)の問題は、系統的に書き出す練習をしておく
Reactivity 1: 化学反応を駆動するもの - 計算問題が多いトピック
攻略ポイント
- エンタルピー変化の計算は、符号(+/-)を間違えやすい。発熱反応は負、吸熱反応は正
- Hessの法則の問題はエネルギーサイクル図を描いてから計算する
- HLのBorn-Haberサイクルは、各ステップの名称と符号をセットで覚える
- HLではエントロピーとギブズ自由エネルギーの計算が加わる。自発的反応の判定条件を理解する
- Data Bookletの標準エンタルピーのデータを使う問題は、反応式と照らし合わせてモル数を正確に
Reactivity 2: どれだけ、どの速さで、どこまで - 理解力が問われるトピック
攻略ポイント
- 反応速度に影響する4つの要因(温度、濃度、表面積、触媒)をボルツマン分布で説明できるようにする
- SLでは定性的な理解でOK。HLでは反応速度式(rate = k[A]^m[B]^n)の計算が加わる
- 化学平衡では、ルシャトリエの原理を「条件変化 → 平衡の移動方向 → 各物質の濃度変化」の流れで考える
- 平衡定数Kcの計算は、ICE表(Initial, Change, Equilibrium)を使うと整理しやすい
Reactivity 3: 化学変化のメカニズム - SLとHLの差が大きい
攻略ポイント
- SL: 強酸・強塩基の計算、指示薬の選び方、滴定曲線の読み方、酸化還元の基本
- HL: 弱酸・弱塩基のpH計算(Ka, Kb使用)、緩衝液(buffer)の仕組み、反応メカニズム(SN1, SN2, 求電子付加など)
- 滴定曲線は「なぜその形になるか」を理解する。強酸+強塩基、弱酸+強塩基で形が異なる
- 有機反応のフローチャートを自分で作る。「アルコール → アルデヒド → カルボン酸」のような変換経路を一枚の図にまとめると全体像が見える
IB経験者からのアドバイス: 有機化学は「反応の連鎖」で覚えるのが一番効率的です。バラバラに暗記しようとすると混乱します。変換経路を試薬と条件付きで一つのマップにまとめると、全体像が見えてきます。
IA(Scientific Investigation)の進め方 - 新4基準で解説
IAはChemistry全体の20%を占める大きな評価項目です。2025年新シラバスでは「Individual Investigation」から「Scientific Investigation」に名称が変わり、評価基準も大きく変更されました。
2025年新シラバスでのIA変更点
- 評価基準が5基準から4基準に変更(各6点、合計24点満点)
- 語数上限が3,000語に短縮(旧シラバスでは6,000~12,000語)
- グループでの共同実験が可能に(ただしレポートは個人で提出)
新4基準の詳細
Criterion A: Research Design(6点)
- リサーチクエスチョンに独立変数と従属変数(または相関する2変数)が明確に含まれているか
- 背景知識がリサーチクエスチョンに直接関連しているか
- 再現可能な方法論が記述されているか
- 関連する十分なデータを収集するための方法が説明されているか
Criterion B: Data Analysis(6点)
- データが適切に記録・処理・提示されているか
- 表やグラフに正しい単位、ラベル、有効数字が使われているか
- 測定の不確かさ(uncertainty)が記録され、計算に反映されているか
- エラーバー付きのグラフが作成されているか
Criterion C: Conclusion(6点)
- リサーチクエスチョンに対する結論がデータ分析と一貫しているか
- 結論が科学的な文脈の中で正当化されているか
- 結果と理論値・文献値の比較が行われているか
Criterion D: Evaluation(6点)
- 実験方法の強みと限界が現実的に評価されているか
- 系統誤差とランダム誤差が区別されているか
- 改善点が具体的で実現可能なものになっているか
テーマ選びのコツ
- 独立変数が1つで明確に操作できるテーマを選ぶ
- 従属変数が数値で測定できること(色の変化のような定性的データだけでは弱い)
- 学校の実験設備で安全に実施できること
- IBシラバスの内容と明確に関連していること
- 「自分が本当に知りたいこと」をテーマにすると、Conclusionが深くなる
テーマ例についてはIB Chemistry IAのテーマ例30選も参考にしてください。
IA高得点のポイント
- 不確かさ(uncertainty)の計算を必ず含める。これがないとData Analysisで高得点は取れない
- エラーバー付きのグラフを作成する
- 改善点は「次にやるとしたら何を変えるか」を具体的に書く。「もっと正確に測る」のような曖昧な記述はNG
- 3,000語以内に収める。 旧シラバスよりも大幅に短いため、簡潔に書く力が求められる
- グループで実験する場合も、データの解釈と結論は完全に自分独自のものにする
Paper 1A(MCQ)対策
Paper 1Aは選択式問題です。SLが30問、HLが40問。2025年新シラバスでは電卓とData Bookletが使えるようになりました。
対策のポイント
- 1問あたり約1.5分が目安。迷ったらマークして先に進む
- 消去法を積極的に使う。明らかに違う選択肢を先に消す
- 計算問題は概算(estimation)で選択肢を絞れることが多い
- 電卓が使えるようになったので、計算の正確さが以前より求められる
- 過去問で出題パターンを把握する。同じ概念が違う角度から問われることが多い
- Data Bookletで確認できる内容は暗記不要。ただし「どこに載っているか」は把握しておく
Paper 1B(データ分析)対策
Paper 1Bは2025年新シラバスで新設されたセクションです。旧Paper 3 Section Aに相当する内容で、実験データの分析力が問われます。
対策のポイント
- 実験手順の記述、データの処理、グラフの作成・解釈が出題される
- 不確かさの計算方法を完璧にする(絶対不確かさ、相対不確かさ、伝播)
- グラフから傾きや切片を読み取って計算する問題に慣れておく
- 「なぜこの実験手順が必要か」「この操作で何を制御しているか」を説明できるようにする
- 旧Paper 3の過去問(Section A)が練習に使える
Paper 2対策
Paper 2は最も配点が大きい(44%)Paperです。記述と計算の両方が出題されます。
対策のポイント
- 計算問題は途中過程を必ず書く。最終答えが間違っていても、途中点(ECF: error carried forward)がもらえる
- 「説明せよ(Explain)」と「記述せよ(State)」の違いを理解する。Explainは理由まで書く必要がある
- 化学式・構造式は正確に。Lewis構造式を描く問題は孤立電子対を忘れずに
- グラフの問題では、軸のラベル・単位・スケールが正しいか必ず確認
- 新シラバスでは「Structure」と「Reactivity」を横断する問題が増える。トピック間のつながりを意識して勉強する
- HLでは計算量が多いので、時間配分の練習が重要。難しい問題に時間をかけすぎない
Data Bookletの使い方
Chemistry試験では毎回Data Bookletが配布されます。2025年新シラバスではPaper 1Aでも使用可能になったため、活用の重要性がさらに高まっています。
Data Bookletに載っている主なもの
- 周期表
- 電気陰性度の値
- 標準電極電位
- 結合エネルギーの値
- 赤外線(IR)スペクトルの吸収帯
- 各種物理定数(アボガドロ定数、気体定数など)
- 熱力学データ
Data Bookletに載っていないもの(暗記必須)
- 有機化学の反応メカニズム
- VSEPR理論による分子の形状名
- 酸化数のルール
- 指示薬の変色域
- 各物質の色(遷移金属イオンの色など)
活用のコツ
- 普段の勉強からData Bookletを手元に置いて問題を解く。 本番で初めて見るのでは遅い
- ページ構成を覚える。 「周期表は何ページ、結合エネルギーは何ページ」と即座に開けるようにする
- Data Bookletに載っていない公式を自分でリスト化する。 これが暗記リストになる
Data Bookletの詳しい使い方も参考にしてください。
IB卒業生からのアドバイス
アドバイス1: StructureとReactivityのつながりを意識する
新シラバスの最大の特徴は「構造が反応性を決める」というテーマです。例えば、分子の極性(Structure 2)が溶解性や反応速度(Reactivity 2)にどう影響するかを考えながら勉強すると、トピック間の関連が見えてきます。バラバラに暗記するのではなく、「なぜそうなるか」を常に意識してください。
アドバイス2: 計算で単位を書く癖をつける
Chemistryの計算では、単位を書かないと減点されることがあります。特にモル濃度(mol/dm3)、体積(dm3 vs cm3)、圧力(kPa vs Pa)の単位変換に注意してください。
アドバイス3: 暗記に頼りすぎない
Chemistryは暗記科目だと思われがちですが、IBでは「なぜそうなるか」の理解が問われます。特に化学平衡やKineticsでは、理由を説明する問題が多く出ます。丸暗記ではなく、概念を理解した上で覚えるようにしましょう。
アドバイス4: IAは早めに動く
3,000語の上限は短く見えますが、質を上げるために何度も推敲する時間が必要です。テーマ選びはDP Year 1のうちに始め、実験も余裕をもって実施してください。
アドバイス5: 過去問を戦略的に使う
2025年新シラバスの過去問はまだ少ないですが、IBO公式のSpecimen Paper(見本問題)は必ず解いてください。旧シラバスの過去問も、トピック内容が重なる部分は十分に練習になります。Mark Scheme(採点基準)を熟読して、どこで部分点がもらえるかを確認しましょう。
勉強スケジュールの目安
DP Year 1(11年生)
- 各トピックを学んだ直後に過去問を解く習慣をつける
- IAのテーマ候補を3つ程度考え始める
- 苦手トピックを早期に特定し、対策を始める
- Data Bookletを普段から使い始める
DP Year 2(12年生)前半
- IAの実験を実施し、レポートを完成させる(3,000語以内)
- 過去問をトピック別に解き、弱点を潰す
- StructureとReactivityの横断的な理解を深める
DP Year 2(12年生)後半 - 試験前
- 過去問を本番形式(時間制限あり)で解く
- Paper 1BのSpecimen Paperを重点的に練習
- Data Bookletを使いこなす練習
- 間違えた問題の復習と最終チェック
まとめ
IB Chemistryは覚えることも理解することも多い科目ですが、正しい方法で計画的に取り組めば、着実にスコアを伸ばせます。
- 2025年新シラバスの変更点を理解する: Structure/Reactivityの新構成、Paper 3廃止、IA新基準を把握
- SL/HLの違いを理解し、自分のレベルに合った学習計画を立てる
- StructureとReactivityのつながりを意識して勉強する
- IAは早めに着手。テーマ選びから実験、3,000語以内のレポート作成まで十分な時間を確保する
- Data Bookletを味方にする。 Paper 1Aでも使えるようになったので、普段から活用する
- 過去問は戦略的に使う。 Specimen Paperと旧過去問を併用し、Mark Schemeの分析もセットで
IB Chemistryで伸び悩んでいる方、IAのサポートが必要な方は、IB経験者に相談してみてください。
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